ご冗談でしょう、むとうさん

自称「この世界ってどうなってるのかな学」をやってるひとが書いてるブログ。一応ベースは経済系。書評チックなものからただの雑感まで、本の話題を中心につれづれなるままに書き散らす予定。最近は思考メモが中心。「記事は全て個人の見解」らしいです。

【割と書評】『卑弥呼は何を食べていたか』

ということで移籍後初【割と書評】コーナーいってみよう。

 

今回取り上げるのは、『卑弥呼は何を食べていたか』(新潮新書)。こんなタイトルだけれど、卑弥呼の章は最初の5分の1くらいで、実際は古代史全般における食文化を紹介している本。

 

古代史の面白さと厄介さは、文字史料が少ないことに帰着すると思う。特に日本に歴史書が登場するまでは、中国の歴史書に頼らなければいけない。あとは遺跡を掘り当て、発掘し、年代を推定し…といった作業に頼ることになる。この推定部分がかなり厄介だからこそ、遺跡のねつ造があったり、教科書の内容がコロコロ変わったりするんだよね。これが厄介さだ。

 

でもコンテンツとして古代史を消費する側としては、実はこの「推定」がとても面白い。著者の味が出るし、こちらも想像して楽しむことができる。なんとなく文字にされてしまうと平伏してしまう我々のかなしい性(?)もあり、古代史ならではの楽しみだと思う。特に食文化に関しては推定の楽しさが光る。なんせ自分で作ってみて食べてみて感動することができるんだから。この著者は古代食研究家ということだが、きっとこの楽しさにとりつかれた一人なんだろう。

 

さて内容だけど、古代人が食べていた食材をいくつかのテーマごとに整理して、調達方法~調理方法まで紹介している。あっちへ飛びこっちへ飛び、読みやすいか?と言われると決してそんなことはない。何の話をしてたんだっけ?となることも多々ある。とはいえ、雑学本だからこんなもんだろう。

 

特に印象に残ったのは、牛乳・乳製品の下り。文武天皇はチーズが大好きだったらしい。乳製品はパン、肉と共に良くも悪くも欧米化の象徴のような扱いだけれど、実際はむしろ、古代日本人も大好きでしたと。

 

確かによく考えると、肉に関しては仏教上の問題で食べず、パンはそもそもコメの代替品みたいなもので不要だけど、乳製品って禁止はされてないし、特に代替品があったわけでもないんだよね。そういえばブッダは乳粥をもらって元気になった、みたいなエピソードがあったはず。実際仏教が乳製品をプッシュしているという説明も出てくる。それを考えれば、むしろ日本人が好んで食べたと考えた方が自然だ。

 

もうひとつ興味を引いたのは、古代人の栄養バランス。例えば脚気の話。脚気と言えば森鴎外が海軍医時代にやらかしたエピソードが有名だけど、この時代の貴族も例によって脚気に悩まされていたらしい。脚気というと「玄米を食え」ということになるんだけど、それ以上に魚介類の問題があったとか。庶民が食べてる貝の方が栄養バランスには優れていたんだそうな。

 

とまぁこんな感じで、それ以外にも氷だの干し飯だのアワビだの甘味料だの(氷は食材とは言わないか)、ここで紹介しきれなかったたくさんの食材が出てくる。カラー写真とかがあればもっと楽しめたかもしれないけれど、それは新書に求めちゃいけないかな。さて、今日は何を食べようか。この食材、古代ならどんなふうに調理したかな。そんなことに想いを馳せつつ、そっと本を閉じようか。

 

(追記):今読み直してみて気がついたけど、卑弥呼のヒの字も出てきてないなこの文章笑。