ご冗談でしょう、むとうさん

自称「この世界ってどうなってるのかな学」をやってるひとが書いてるブログ。一応ベースは経済系。書評チックなものからただの雑感まで、本の話題を中心につれづれなるままに書き散らす予定。最近は思考メモが中心。「記事は全て個人の見解」らしいです。

【割と書評…?】『面白い本』

今月第2回目の【割と書評】は、成毛眞さんの『面白い本』。まぁ成毛さんが好きな本、面白かった本を語るという本…書評集なので、それを改めて書評するのも変な話だけど。ということで【割と書評…?】

 

全部で100冊紹介されていて、8個のサブセクションに分かれている。最後に鉄板読み物としておまけで数冊。私が過去読んだことがあるのはメインの100冊から4冊と、鉄板読み物から2冊。少ないと見るか多いと見るかは微妙なところだけれど、まぁ少ないのかな。ただタイトルを聞いたことがないどころか名前を見たことがないような出版社がぞろぞろ出てくるわけで(廣成堂出版とか恵雅堂出版ってどこですか?)知っている人の方が異端であることは間違いない。*1

 

岩波新書の読書本というと、多分多くの人が真っ先に思い浮かべるのが有名な『読書力』(斎藤孝)だと思う。こっちはかなり教養主義的な選本だったし、それ以外の読書論のところもずいぶんと高圧的というか、対象のよくわかんないものだった。それと比べると成毛本はとりあえず「読書楽しーなー」という感じが全面に出ていて好感が持てるし、純粋に「それなりの本好きにマイナーな面白い本を教えてあげる」というスタンスでわかりやすい。

 

さて、私が読んだことのある4冊を、成毛評、むとうさん評を簡単に比較したりしながらざっと流してみよう。

 

 

1:『ワンダフル・ライフ』 J・グールド ハヤカワ文庫

 

この本でも一番最初に出てくるあたり何か思い入れがあるのかもしれない。一般向け科学書を読む人の間では有名なグールド。もう若干過去の人かな。バージェス頁岩という謎の、奇妙な生き物の化石をもとに、進化生物学の常識を壊していく本だ。

 

成毛さんは、地球の支配者面をしている人間がいかに地球史の巨大な流れの一部でしかないか痛感させられる、と読んでいる。私がこの本を読んだ時にまず感じたのは、日本語の「進化」という訳語の難しさだ。英語だとどうなのかわからないけれど、日本語の「進化」にはあまりネガティブな意味はない。だけど生物の「進化」が必ずしも一本の改善過程にあるわけではない、というのが、このバージェス頁岩が示したことだ。

 

この議論が受け入れられるようになったのは、所謂「ぽすともだん」みたいな思想がそれなりに流行ってたからじゃないかなと思ってる。進化論成立、受容は経済成長の安定化とかで「ものごとは改善されていく」という思想が広まったことと表裏一体だと思う。そこらへんの「イケイケドンドン」みたいな思想がちょっと修正された時期に出た議論・本なんじゃないかな。*2

 

2:『フェルマーの最終定理』 サイモン・シン 新潮文庫

 

これは説明不要の超有名作品。成毛評は『暗号解読』もひっくるめて「数式を言葉で表す才能に長けている」とのこと。数学は一つの言語だ、という考え方は広くあるけれど、その数学「語」の名翻訳者、という感じかな。

 

私の感想は、「テレビ文化と活字文化の融合の極み」というもの。*3サイモン・シンは確か元々テレビ番組の名プロデューサー。つまり視覚に訴えるのがバツグンに上手い。だから文章も、とにかくイメージ、映像が見えてくる構成になっているな、という印象を受けた。要するに「プロジェクトX」なのである。かぜのなかのすばるぅ~。

 

あと訳者の青木薫さんについてコラムで触れられていたのがよかった。私もこの訳者さんは大好きで、読んでいて安定感があると思う。翻訳者で最近有名なのは山形さんかもしれないけれど、青木さんは割と原文に忠実に訳してるなーという印象を受けた。え?比較対象が悪い?

 

 

3:『ご冗談でしょう、ファインマンさん』 R・ファインマン 岩波現代文庫

 

これもまぁ説明不要の超有名自伝。成毛さんはとりあえずこの本は「ウソが入っている」ということを強調したいらしい。成毛さんの本『実践!多読術』の中にも、この本に書いてあることを全て本当だと思っている人がいるが云々という記述がある。そしてこの本は、『面白い本』の中で「嘘のノンフィクション」という枠でなんとあの『鼻行類』などと同列に扱われている(!)

 

この扱い方、私はちょっと「?」である。だって自伝ってそういうものじゃない?例えば『高橋是清自伝』なんかは逆に、自分はものすごく几帳面でやたらと記録をつけてきたからめっちゃ正確ですよー、という断り書きがある。逆に言うと人の記憶なんて曖昧なものだし、自分で語っている以上よく見せようとするバイアス、よく解釈するバイアスが入るのは避けられない。

 

そういう意味でも、このファインマン本をあえて「嘘のノンフィクション」として、嘘が含まれていることをことさらに強調する姿勢はフェアじゃない思うのだ。自伝と呼ばれるもの全てをそういう扱いで読むならともかく。ファインマンだから嘘八百だったとしても腹が立たないというのはわからなくはないけれど、それを「嘘のノンフィクション」という枠で紹介するのはいかがなものかなぁ。

 

 

4:『二重らせん』 ワトソン、クリック ブルーバックス

 

これも科学者の発見伝としては超有名。成毛さんはあまりこの本そのものについてはコメントしていない。どちらかというと背景にある、ロザリンド・フランクリンとの確執、剽窃疑惑の方に注目している。この話は割と最近になってから、比較的信頼できる定説として広まったもので、昔からあったわけじゃないみたい。

 

それよりなんでわざわざブルーバックス版なんぞをこのタイミングで(2012年)出したんだろうか。確か講談社文庫にずっと入ってたんだけど、実質値上げ?それとも解説が充実してたりするんだろうか。訳者は同じみたいなので訳文が変わってるとは思えない。

 

 

最後は本編とは全く関係のない内容になってしまった笑(成毛評が短すぎて…)。全体的に『面白い本』の書評記事というよりは成毛さんの本を口実に私が有名な科学読み物の感想を書き直してるみたいな記事になってしまったのは一応反省。

 

成毛さん、これからも面白い本をたくさん紹介してくださいね。Honzも応援してます!

*1:読書人は異端を目指して進んでいくんだよ!というのはおいといて

*2:原著は1989年。研究としてはもう少し前に行われてるからまぁ80年代半ばから後半の空気…「ぽすともだん」思想の流行ってこの時期で良いんだっけ?

*3:そういう意味ではサイモン・シンの面白さは池上彰の本の読みやすさ、面白さに通じるものがあるのかもしれない。