ご冗談でしょう、むとうさん

自称「この世界ってどうなってるのかな学」をやってるひとが書いてるブログ。一応ベースは経済系。書評チックなものからただの雑感まで、本の話題を中心につれづれなるままに書き散らす予定。最近は思考メモが中心。「記事は全て個人の見解」らしいです。

3月の読書メーターまとめ

2月は過去稀に見る少なさだったけど、さすがに今月は標準程度に復活。新書文庫率の高さはもしかしたら過去稀に見るレベルかもしれない。1冊あたりページ数も350オーバーだけど、『リビング・ヒストリー』と『驚異の百科事典男』が引っ張っている感は否めない。どっちも面白かった。

 

今月のベストなんだけども、やはりトップに据えるとなると『リビング・ヒストリー』だろうか。私はこの世代で活躍した女性の自伝・伝記が大好きなのだ。自分の力で道を開いていくという気概が感じられて、元気が出る。

 

次点は『桃太郎はニートだった!』『中国共産党の経済政策』『太陽系はここまでわかった』『驚異の百科事典男』『聖書考古学』…今月は次点クラスが大量で、割とよい月でしたね。(まぁ今月の新刊は一冊もないんだけども!)

 

2013年3月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:4572ページ
ナイス数:65ナイス

朽ちるインフラ―忍び寄るもうひとつの危機朽ちるインフラ―忍び寄るもうひとつの危機感想
橋の崩壊、堤防の決壊、市役所の崩壊…といきなり衝撃的な書き出しで始まる本。笹子トンネルの事故を受けて書かれた…本ではなく、2011年の出版。その辺の先見の明は素晴らしい。民間企業の会計基準なら当然存在する「減価償却」の概念がどっかに行ってしまっていることが一つの大きな原因なんだろうね。開発した計算ソフトの宣伝色は割と強いか。解決策として市民みんなでコスト意識を持って話し合ってーみたいなのは確かに有効なんだろうけど、それがやりにくい(できない)のが公共財の公共財たる所以なわけで、その辺はちょっと短絡的かな。
読了日:3月2日 著者:根本 祐二
リビング・ヒストリー ヒラリー・ロダム・クリントン自伝リビング・ヒストリー ヒラリー・ロダム・クリントン自伝感想
私は女性政治家、特にこの年齢層の人たちの自伝が好きだ。基本的に女性の社会進出がまだそれほどいい顔をされなかった時代なので、いかに自分の力で道を切り開いてきたかがよくわかる。以前読んだサッチャー自伝もとても面白かった。それと比べると基本的にファーストレディとしての時間が長いため、政治の第一線でという形にはなれないのが残念。ホワイトハウスの裏話とか面白いところもたくさんあるし、女性の権利向上に関するエピソードは興味深かったが。ビルの退任で終わっているので、国務長官ヒラリーとしての部分がそのうち出るかな?
読了日:3月3日 著者:ヒラリー・ロダム・クリントン
科学と人間の不協和音 (角川oneテーマ21)科学と人間の不協和音 (角川oneテーマ21)感想
疑似科学入門』の予防原則振りかざし姿勢には閉口していたが、それが原発事故でふっきれてしまったらしい本。頑張って「中立的」に書こうとはしているようだが、原発事故の下りや清く貧しく云々など、著者の裏に見える主張が見え隠れ。問題は著者が「科学者」であること。自分の書いてきた「科学者」批判にご自身の研究生活は耐えられるのか?この辺を振り返った記述がもっとあれば印象も違ったんだろうけども。結局は「科学」ではなく「科学者」の問題、もっと言えば政治や経済の問題に帰着するんで、科学者はもっと科学で遊んでてください。
読了日:3月6日 著者:池内 了
中国共産党の経済政策 (講談社現代新書)中国共産党の経済政策 (講談社現代新書)感想
習近平時代に突入することを踏まえて、中国はこれからどこへ向かうのか。タイトルがミソで、「中国共産党の」経済政策なのだ。決して「中華人民共和国(中国)の」経済政策ではないということ。共産党内のポスト争いや人脈といった概念をきちんと理解しないといけなくて、その辺をしっかりと最初に書いているのはありがたい。基本的に今後の中国についてはやや楽観的かなという印象。ソ連(社会主義)の二の舞にならなければいいけれど。全体として新発見の詰まった本というわけではないが、問題点の整理などですっきりした良書だろう。
読了日:3月8日 著者:柴田 聡,長谷川 貴弘
日本の七大思想家 丸山眞男/吉本隆明/時枝誠記/大森荘蔵/小林秀雄/和辻哲郎/福澤諭吉 (幻冬舎新書)日本の七大思想家 丸山眞男/吉本隆明/時枝誠記/大森荘蔵/小林秀雄/和辻哲郎/福澤諭吉 (幻冬舎新書)感想
誰もが名前を知っている(※1人除く)思想家7人の思想を、500ページ近いとはいえ新書1冊で読み解こうというなかなか無茶な試み。ベースのテーマが「西洋をどう乗り越えるか」を敗戦とパラレルに見ていく…途中で西部だの中野剛志だの佐伯だの出てくるので、ああそういうことかという感じ(苦笑)日本人論としての思想を見るならともかく、言語論や倫理学といった普遍的なものが求められるあたりで「西洋を乗り越えた日本!」みたいなことやってもしょうがないと思うんだけど。興味を持てたという意味ではとっかかりに良い…のか??
読了日:3月9日 著者:小浜 逸郎
僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか 絶望から抜け出す「ポジ出し」の思想 (幻冬舎新書)僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか 絶望から抜け出す「ポジ出し」の思想 (幻冬舎新書)感想
シノドス編集長による評論論…とでも言えばいいのかな?最後に宣伝が載ってて苦笑い。「頭でっかち」と「心でっかち」、アプローチは人へか物へかなど、キャッチフレーズはとても面白く頭に残る。それ以外の部分でものすごく真新しいことはないかもしれないけれど、言う=ダメ出しだけで実行されないことに問題があるということ。シノドスの背後にある思想が垣間見える。実行しようとしているからこその言葉の重みかな。経済状況に関する部分はちょっと蛇足感があるけれど、現状分析には欠かせないか。社会保障と消費税の部分は若干アヤシゲ。
読了日:3月12日 著者:荻上 チキ
桃太郎はニートだった! 日本昔話は人生の大ヒント (講談社プラスアルファ新書)桃太郎はニートだった! 日本昔話は人生の大ヒント (講談社プラスアルファ新書)感想
タイトルが若干アレだが、中身は至極まっとうな、童話(昔話)を通じた比較文化論。「人生の大ヒント」という感じもあまりなくて、良い意味でタイトル詐欺かもしれない。現在一つの昔話として語られているものが実は2つの別の要素の組み合わせではないか、という議論はなかなか面白い。また「正直おじいさんと隣の強欲おじいさん」という構図が韓国では兄弟というのも興味深い。グローバル化の中で、こういう物語に共通要素を見つけていければ、全世界の人たちが共感できる新たな文化が生まれるのかも…まで言うと深読みしすぎかな。
読了日:3月13日 著者:石井 正己
長宗我部 (文春文庫)長宗我部 (文春文庫)感想
戦国好きなら一度は聞いたことのあるあの家の末裔がご先祖について書く、という面白い試み。秦氏、始皇帝まで遡れるとかホントかいなと思ったが、宮内庁が通してしまうのだから意外とちゃんと証拠があるんだろう(失礼)元親、盛親の時代は戦国ネタで出てくるので、やはり面白いのはその前と、その後。山内政権下での旧長宗我部家臣、特に島姓になってまで仕えた一族の話は初めて知ったかな。それが明治維新につながるのもスケールが大きくていいね。あといくら代々使った字だからといって「親(ちかし)」という名前はどうかと思う笑。
読了日:3月16日 著者:長宗我部 友親
現代中国の政治――「開発独裁」とそのゆくえ (岩波新書)現代中国の政治――「開発独裁」とそのゆくえ (岩波新書)感想
中国も新体制になったわけで。著者は中国生まれ→日本に留学&日本在住ということで、「昔と比べればよくなったんだよねぇ」というスタンスな印象。結局はどんな状況もそれ相応の理由があるわけで、現状の中国に対して「民主化しない中国がイカン」とか「中国人民は抑圧されて可哀そう」という議論では始まらないということ。中国経済が破綻するとかもっと伸びるとかいろんな議論はあるけれど、政治との関わりも無視できない。多民族が自治区を持っていたり、農村と都市部が同じ国とは思えない状況では「民主化」は難しそうである。
読了日:3月18日 著者:唐 亮
太陽系はここまでわかった (文春文庫)太陽系はここまでわかった (文春文庫)感想
宇宙の話はダークエネルギーとか宇宙誕生云々が流行ってるけど、よくいえば身近…悪く言えば地味である太陽系探査の話。宇宙論が物理系なら、太陽系探査は生物系と結びついているのかな。基本的に生命探査、生命の起源を知るためにという意味合いを強く感じる。ソ連対アメリカの宇宙探索競争は面白い。プロジェクト規模が大きいから、単純に「知りたい」だけではなかなか通らないのだね。過去様々な人が、シンプルな望遠鏡だけで大きな発見をしていたことにも驚かされる。アポロ陰謀論に対する著者の憤りには大きな共感を覚えた。
読了日:3月21日 著者:リチャード コーフィールド
江戸の卵は1個400円! モノの値段で知る江戸の暮らし (光文社新書)江戸の卵は1個400円! モノの値段で知る江戸の暮らし (光文社新書)感想
江戸時代の物価から庶民がどんな生活をしていたかを探るという本。1文=20円という前提で話が進んでいくが、その根拠が「二八蕎麦が16文=320円だから」というちょっと曖昧なもの(それ以外にもあるらしいが)で、この辺の検証はもう少しきちんとしてほしかったかな。内容としてはトリビア本として十分楽しめる。町の関所(木戸番)がコンビニ化していた、蝋燭の使い残しすらリサイクル、とにかく見栄を張りまくる江戸っ子たち、などなど。特にいろんな物売りが出てくるのが面白い。通信販売の元祖…と言ってしまうと大げさか?
読了日:3月24日 著者:丸田勲
驚異の百科事典男 世界一頭のいい人間になる!驚異の百科事典男 世界一頭のいい人間になる!感想
百科事典ばりの厚さを持つ?百科事典読書日記とでも言おうか。著者が印象に残ったトピックについてコメントをしているのだけれど、エスプリが効いていてとても面白い。ブリタニカに載るためにはどうすればいいか、など真面目に条件を挙げていたり。単純な読書日記だけでなく、クイズ番組に出たりIQテストを受けたり…著者の行動力の高さを物語っているし、ある種の「頭の良さ」の一面を表しているのかな。一番印象に残った項目は「;」を古代ギリシャでは疑問符として使っていたらしいという話。本当かな;←こんな感じで使ってたらしいですよ。
読了日:3月29日 著者:A・J・ジェイコブズ
聖書考古学 - 遺跡が語る史実 (中公新書)聖書考古学 - 遺跡が語る史実 (中公新書)感想
聖書の記述を歴史的に捉えるとどうなるか?ノアの箱舟の洪水が云々という話を聞いたことがあったが、もっと考古学チックな。やはり聖書の性質上批判も多いのか、考古学的な見方に対する「言い訳」に多めにページが割かれている印象。古事記の扱いと並べて捉えるのは各方面から賛否両論きそうだ。記述に出てくる装備が明らかに時代錯誤だから後世のもの、という見方は面白い。大河ドラマとか遠い未来はそんな扱いかも。反動で聖書の記述を軽めに見るのが現代の主流であることを嘆くような記述もあった。この悩みは全学問共通なんだろうな。
読了日:3月31日 著者:長谷川 修一

読書メーター

2月の読書メーターまとめ

恒例のまとめ。ちょっとさすがに忙しかった+2月は日数が少ない*1のもあるけれど、7冊はやっちまったなぁ。重いのがいくつか控えてますけどそれを差し引いてもちょいとよろしくない。

 

とはいえ意外と大粒ぞろい。1冊平均が350ページを超えている月って珍しいかも。ハードカバー3冊が500ページ近いのばっかりで、新書も割と厚めだったから。なお3月1発目は700ページくらいのが控えててですね…ry

 

今月のベストは『かつての超大国アメリカ』かなぁ。「最近の日本はまったくケシカラン」という議論のアメリカ版だと思っていただければ。まぁ、意外とアメリカも大変なことになってるんだよねってことでそれなりに面白かった。「最近の日本は~海外を見習え!」的議論をなだめる*2的な使い方もできる笑。

 

次点は『2100年の科学ライフ』か。新書組はタイトル詐欺だったり致命的な間違いがあったりどうもパッとしなかった。

 

2013年2月の読書メーター
読んだ本の数:7冊
読んだページ数:2556ページ
ナイス数:30ナイス

もっとも美しい数学 ゲーム理論 (文春文庫)もっとも美しい数学 ゲーム理論 (文春文庫)感想
ゲーム理論以上に最先端の(人間)科学を紹介する意味合いの強い本。主に統計力学との統合が強調されているのが面白い。ニュートンとスミスの繋がりはわかりやすいが、ダーウィンとノイマンをその流れの中に置くのは新しいのかも。量子ゲーム理論=混合戦略、というのはなるほどと思う。鳥の目と虫の目を両方持って世界を捉えるためには本当に役立つツールなのだ。全体として数式も少なく読みやすい。タイトルが若干不自然なのだけれど、ナッシュの「ビューティフル・マインド」にかけているらしい。そう考えるとこのタイトルの訳はコケてる…うん。
読了日:2月2日 著者:トム ジーグフリード
かつての超大国アメリカ―どこで間違えたのか どうすれば復活できるのかかつての超大国アメリカ―どこで間違えたのか どうすれば復活できるのか感想
19世紀はイギリスの、20世紀はアメリカの世紀だとよく言われる。覇権国家の推移は不可避かもしれないけれど、認めるのはつらい。アメリカ人なら尚更だ。どこで間違えたのか?という副題の問いに一つ答えるとすれば、「冷戦の終結時」というのが最適か。結局最盛期は下降期の始まりと同じだ。教育面での悲惨さが目立ち、著者もそれを憂いているようだ。先進国はどこでも同じような課題に直面しているわけで、盛者必衰なのかもしれないけど。面白いのは政治における第3極の重要性の指摘。日本の政界の現状を見るとなかなか興味深い。
読了日:2月8日 著者:トーマス・フリードマン,マイケル・マンデルバウム
知っておきたいアメリカ意外史 (集英社新書)知っておきたいアメリカ意外史 (集英社新書)感想
独立戦争から医療制度改革まで、アメリカの「意外な」歴史を現在と繋げていく試み…言うほど「意外」な事実が出てこなかったような。フェミニズム問題を一時期齧った身としては女性の権利向上の話が面白い。黒人解放とパラレルなのだね。だからこそ日本だと難しいのかも。一番「意外」だったのはベトナム戦争が日本のためだった?ということ。東南アジアの市場としての重要性は今でも変わらない。あとがきの「複雑で多面性を持つアメリカは人間の鏡像」はちょっとカッコよく笑、「複雑で多面性」という言葉でごまかされたようでもあり。
読了日:2月10日 著者:杉田 米行
悪魔に仕える牧師悪魔に仕える牧師感想
ドーキンスのエッセイ集。どこからでも読めるけど、後半の追悼文や書評のあたりはちょっと単発で読むにはグダグダな感じ。印象に残ったのはやはり前半。特に陪審員批判が面白い。批判理由は「12人いても一つの場でやったら多様な意見にならないだろ!」という。それを科学実験の枠に落とし込んで説明するあたりはさすがと言わざるを得ない。それ以外もいつものドーキンス。娘への手紙がカッコイイ。この子も将来(今?)科学関連の仕事をしているのかな。とにかく信仰や権威批判を徹底しているドーキンスの人となりが伝わってくる本であった。
読了日:2月11日 著者:リチャード・ドーキンス
2100年の科学ライフ2100年の科学ライフ感想
近未来を舞台にした作品に出てくるようなものがすでに、アイディアレベルで可能な技術の延長線にあるんだよという本。先端医療から宇宙進出まで。人工知能の話が興味深く、単純な計算能力の向上では行き詰りそう。コンピューターが身近になり、単語自体が消滅しつつあるという指摘はなるほど。問題はこういった研究にはエネルギーが必要なわけで、例えば足元の経済活動のエネルギーを環境配慮で制約しつつ未来のためにエネルギー投入を惜しまないという形がどこまで支持されるか。ミチオ・カクが将来の「道を」「描く」ということで一つ…
読了日:2月18日 著者:ミチオ・カク
アメリカを動かす思想─プラグマティズム入門 (講談社現代新書)アメリカを動かす思想─プラグマティズム入門 (講談社現代新書)感想
プラグマティズム」がアメリカにいかに浸透しているか、それがいかに機能しているかを説いた本。副題とかから思想の解説本に見えるけれど、プラグマティズムに照らし合わせると何が言える、何ができるかといった話が中心。思想解説に終始しないのはプラグマティズム的でもあるのかな?後半の例はかなり俗っぽい「プラグマティズム」定義で語ってる印象はある。あと反原発運動を持ちあげてみたり、中野剛志と藤井聡が出てくるあたりはなんか陳腐かなー。なんでこういう「シソー」な方々はあの辺好きなんですかね。もにょるなぁ。
読了日:2月22日 著者:小川 仁志
ユーロの正体 通貨がわかれば、世界が読める (幻冬舎新書)ユーロの正体 通貨がわかれば、世界が読める (幻冬舎新書)感想
要するに『円高の正体』の姉妹本。あっちはドル円レートの話だけで、ユーロの話は今回のためにとっておいた…というわけではないらしいが。趣旨としてはユーロ圏の危機が「財政危機」扱いされているのは因果が逆で、独自の金融政策をとれなかったから財政出動せざるを得なかったのだということ。最適通貨論や国際金融のトリレンマからは常識的な結論。気になった点は、日本にとってインフレ4%が本当に緩やかか?ユーロを維持したままのECBの量的緩和ではユーロ圏全体の景気を等しく下支えはできずかえって格差が広がるのでは?といったところ。
読了日:2月25日 著者:安達 誠司

読書メーター

*1:経済統計だとこういうとき季節調整をするんだよな。今度やってみるかw

*2:バカにする、ともいう

『双子の赤字』ってなんだ

『ユーロの正体』(安達誠司幻冬舎新書)を読んだ。

ユーロ圏の危機が財政問題と一緒に語られるがそれは間違いで、原因はそもそも統一通貨のせいで各国が金融政策による独自の景気下支えをできなくなり、財政政策に頼らざるを得なくなってしまったからだ、というもの。要するに「マンデルの最適通貨論」と「国際金融のトリレンマ」ってみんな知っといてね、ということ。ごくごくまっとうな結論で、最後の「日本は緩やかなインフレ4%を~」は若干引っ掛からなくもないが、安達さんらしいなぁという感じ。

 

この本の最大の問題は意外と変なところにあって、それは112ページの記述。ちょっと長いけど抜粋してみる。

 

 中学や高校の高民や政治経済の教科書でよく言及されていた、「アメリカの双子の 赤字」という言葉を覚えている方も多いことでしょう。

 この言葉は、「1ドル=360円」という、産業にとって手厳しい自国通貨高の時代の アメリカの状況をさします。「貿易収支の赤字」と「財政収支の赤字(財政赤   字)」という「双子の赤字」が、当時のアメリカでは大きな問題になっていたので す。

 

えーと、この説明って正しいんだっけ??

 

少なくとも私が知っている限り、中高の公民・政経の教科書で扱われてる「双子の赤字」問題はレーガン政権の時の話を指してる、と思う。ボルカーのインフレ退治の高金利と、サプライサイド経済学(今こんな言葉ないか)の減税が原因で、財政赤字とドル高による経常赤字(貿易赤字)が拡大した。それを解消するためにプラザ合意で円高・マルク高を促すよう合意した。だいたいこんな感じの説明だよね。

 

一方でニクソンショックの説明って、普通「ドルが海外に流通しすぎて金準備が足りなくなって価値が維持できなくなって68年に二重ペッグ導入したけどうまくいかなくて…」みたいな説明をされることが多いと思う。どっちかというと完全にマネタリーな説明。裏に貿易赤字とかがあったのは間違ってないんだと思うけど、「双子の赤字が原因で金ドル本位制は崩壊しました」という説明はちょっと怪しい。

 

双子の赤字」という言葉自体は「貿易赤字(経常赤字)と財政赤字が共存してる状態」だから、1970年代初頭のことを言っても間違いではないのかもしれない*1だけど「中高の公民・政経で扱われてる」「双子の赤字」の説明は多分レーガノミクスの話だし、ちょっと経済史的な文脈で「アメリカの双子の赤字がねー」って言ったら多分だいたいの人は「あーレーガンの時のアレねー」ってなると思う。

 

もちろん私が不勉強なのもあるかもしれないけど、とりあえず手近にあった『現代アメリカ経済』(河村哲二著・有斐閣アルマ)をパラパラ見たところだいたい私がここで書いたことと同じようなことが書いてある。*2てことは多分安達さんの説明の方が少数派なんじゃないかしら。もちろん少数派だから間違っているということじゃないんだけど、少なくとも「一般に言われている双子の赤字」と「ニクソンショック」を結び付けるのは、入門書チックな新書としてはちょいとまずいんじゃないのかなぁ、というのが正直な感想。

 

細かいとこなんだけど、こういうのって本全体の議論の信ぴょう性に影響すると思う。特に入門書だからなるべく一般的に書いた方が良いと思うし、「一般的には~」ってわざわざ書いてしまったのでなおさら引っ掛かるのだ。編集の人も見落としてるわけだけど、安達さんもミスなのかわざとなのか思い込みなのかちょっと判断がつかなくて。

 

もちろん、実は最近の教科書はニクソンショックを双子の赤字で説明するんだよとか、他にこんな本・論文でそういう説明になってるよとかあったら調べますんで、教えていただければ幸いでございまする。

*1:実際、今のアメリカの状態を「双子の赤字」と言うことはある

*2:この本、4年くらい前に教養の講義で使うからって買ってホトンド使わなかった。だから少なくともこの本以外で、私はニクソンショックをマネタリーな形で説明する解説を聞いているor読んでいる

1月の読書メーターまとめ

さて恒例の先月のまとめです。

 

冊数14冊はまぁ標準、やや多め?新書が多かったかなという感じ。実際ページ数は先月より微減の4340ページ。大体1日140ページ強ということで、1時間弱程度読書に費やしている計算かな。ものにもよるけれど。

 

ナイス数は55ナイス。おそらく『面白い本』が8ナイスで無駄に(失礼)引っ張っている感じ。意外と『入門朱子学陽明学』が伸びていた。

 

今月のベストはうーん、突出した1冊がなかった代わりにピンポイントなツボを突いてくる本が多かった印象で、1冊になかなか決めづらい。

 

候補としては『ハチはなぜ大量死したのか』『卑弥呼は何を食べていたか』『図解・超高層ビルの仕組み』あたりかな。あえて1冊、と選ぶなら『卑弥呼は何を食べていたか』を推したい。詐欺感満載のタイトルながら、最後まで楽しめたという意味で。笑。

 

『ハチはなぜ~』は確かに面白かったけれど、解説の福岡伸一で若干萎えたのが減点要因。この人はそろそろ動的平衡という言葉を使うのをやめてみたらどうだろう?

 

2013年1月の読書メーター
読んだ本の数:14冊
読んだページ数:4340ページ
ナイス数:55ナイス

脱デフレの歴史分析―「政策レジーム」転換でたどる近代日本脱デフレの歴史分析―「政策レジーム」転換でたどる近代日本感想
新年一発目。近年の日本のデフレと昭和恐慌期を比較して論じる本は数多くあるけれど、この本の特徴は「レジーム」と背後にある思想に着目して論じたところにある。大国思想で金本位制に拘泥したこと、松方財政の本質を見誤っていたこと、金融面に対する蔑視など様々な要素が井上財政に繋がったとする。一般的な経済モデルでは背後の社会思想は重要視されない傾向にある(と思う)が、そういう意味でも経済史の面白さが詰まっている本。金融政策のレジームシフトは正に今起きているのかもしれないと考えると、今後を考える上で参考すべき点は多いか。
読了日:1月1日 著者:安達 誠司
ハチはなぜ大量死したのか (文春文庫)ハチはなぜ大量死したのか (文春文庫)感想
21世紀版『沈黙の春』といったところか。著者も意識しているのか、最終章が「実りなき秋」という名前だったり。書いてあることはハチの大量死。それがウィルスに加え抗生剤、農薬、無理な移動など人為的な原因でも起きていること。自然のシステムを回復させて云々。まぁどっかで聞いた話だけども、構成が上手いのかグイグイ読める。しかしアメリカの農業は規模が違うね。その大規模性がこの問題の遠因とも言えるけど。環境問題云々でなく、単純にハチの生態を知る、蜂蜜を食べたくなる、くらいの気持ちで読んだ方が楽しめるかもしれない。
読了日:1月3日 著者:ローワン ジェイコブセン,福岡 伸一
卑弥呼は何を食べていたか (新潮新書)卑弥呼は何を食べていたか (新潮新書)感想
古今東西「食」は人の心を惹きつけて止まない。飛鳥時代から天皇は氷割酒を飲んでいた、干し飯が幅広く利用された状況など、古代食を再現してきた専門家だけに豊かな食材が頭に浮かぶ筆致…あれ、卑弥呼は?実は卑弥呼は1章でしか扱われておらずその辺はタイトル詐欺感満載。それでも、フグを頑張って食べていた縄文人、藤原道長は糖尿病だったらしい…古代食のトリビア本と考えれば楽しめる。特に乳製品周りは意外の塊。パン、肉と並んで食生活の欧米化の象徴みたいな扱いだけど、こんなに食べられていたとは。さて、伝統回帰、しますか?(皮肉)
読了日:1月8日 著者:廣野 卓
日本近代史 (ちくま新書)日本近代史 (ちくま新書)感想
主に政治家同士のやり取りを元に構成した、尊王攘夷運動から二・二六事件までの歴史。新書とは思えない厚さと濃さ。多分言いたかったことは、教科書でスローガン的に語られる様々な言葉、例えば富国強兵や大正デモクラシーが、その時代の「誰」によって形成されたか。また、複数のスローガン同士の優先順位等がどのように付けられたかをちゃんと見ようということ。西郷の高評価や原敬幻想を打ち砕くなどもそのあたりから来てるのでは。37年で切るのは「そこからは崩壊へ一直線」ということなんだろうけど、その辺はやっぱり書いてほしかったかな。
読了日:1月10日 著者:坂野 潤治
21世紀の知を読みとく ノーベル賞の科学 【生理学医学賞編】21世紀の知を読みとく ノーベル賞の科学 【生理学医学賞編】感想
昨年は山中教授が受賞して話題になったけど、比較的日本人が少ないのがこの賞。印象に残ったのは、プリオンのプルシナー、遺伝子技術のカペッキ、実は内容を初めて知ったレベルの利根川進の3人。でも一番はマクリントック女史。読んでいて、乗り越えたハードルが最も高かった人と感じた。ワトソンクリックのDNA発見の直後に、それを一部修正しないといけない議論を出すのは本当に大変だったろう。テストに集中しすぎて名前を忘れたエピソードも微笑ましい。全体として最先端の生命科学は高校理科だと「化学」に近いなぁと改めて思う。
読了日:1月12日 著者:矢沢サイエンスオフィス
アメリカは日本経済の復活を知っているアメリカは日本経済の復活を知っている感想
安倍政権のブレーンであり、日本が世界に誇る経済学者である著者。所謂「リフレ派」の主張がそのまま書かれていると思えばよい。ただこの本は経済学ではなく社会学の本らしい。リフレ派、日銀批判派の問題点として私が日ごろ感じていたのは、「日銀理論とその取り巻き学者」が形成されるプロセスが何だかよく分からないこと、であった。そのあたりが詳しく説明されているのは大変興味深い。経済学の考え方だと例えば中央銀行は「損失関数の最小化」みたいに動くんだけど、現実には組織の論理とかそういうものでも動く(むしろそっち)ということ。
読了日:1月13日 著者:浜田 宏一
科学は大災害を予測できるか (文春文庫)科学は大災害を予測できるか (文春文庫)感想
地震や火山を始めとする災害の「予測」がどこまで進んでいるか。ある程度の長期的な予測は様々な分野で行われているが、やはり短期的には難しい。長期が予想できるなら自由度を下げた状態で短期モデルを作れば予想できそうだけど、そういうものでもないのかな。バブル崩壊が取り上げられていたのは新鮮。とりあえず、ある数学者は経済学を科学として認めたということである笑。印象に残ったトピックは小惑星の破壊方法。核で壊すのは意外と難しい+危険なのか。あとパンデミックの研究でお金を使うのは斬新な発想。他の分野でも使えそうだ。
読了日:1月15日 著者:フロリン ディアク
図解・超高層ビルのしくみ―建設から解体までの全技術 (ブルーバックス)図解・超高層ビルのしくみ―建設から解体までの全技術 (ブルーバックス)感想
表紙の「鹿島編」が異様な存在感を放っているが笑、建設会社自ら高層建築について書いた本。クレーンを次々と造り直して下ろす方法が面白かった。日本は地震大国だから高層建築が遅れている、という話はある意味実に残念。地価や資産課税制度の関係で都心の土地利用が上手く進んでいない面があるという話も聞くが、是非有効活用していただきたいところである。地震対策と言えば真面目にビルを浮かす方法が考えられているのは衝撃であった。地震の被害も軽微になるし、建物の引っ越しもこれでできそうだ。昔首相官邸をクレーンで引っ張ってたけども…
読了日:1月17日 著者:
入門 朱子学と陽明学 (ちくま新書)入門 朱子学と陽明学 (ちくま新書)感想
入門書の入門書と言っているがそれでもけっこう難しい、朱子学陽明学に関する入門書。何やらいきなり宇宙快感?だのといった単語が飛び交ってきて恐ろしい。所々に「近代西洋思想」に対する対抗意識が見え隠れするのは良くも悪くもあり。著者の独文科からアジア思想という異色な経歴もこの辺に関わってくるのだろう。とりあえず読み切った感想としては、学というより宗教。元々「儒教」だから当り前なのだけど、「学」という名前にするから妙な誤解と批判を招くのでは?宗教ですよ~と割り切ってくれればもっとちゃんと評価されるのではないかな。
読了日:1月19日 著者:小倉 紀蔵
モノが語る日本対外交易史 7-16世紀モノが語る日本対外交易史 7-16世紀感想
フランス人がフランス語で日本の交易史を書き、それが英語翻訳されて最終的に日本語になったという経緯を持つ本。思ったより専門書チックで「楽しめる」タイプの本ではなかったが、水銀や唐物など細かいところで発見はあった。中国は理念先行、日本は実益先行型の貿易をやっていたというのは、19世紀の近代化の波に対する反応に通ずるものがある。東アジアを地中海になぞらえていたけれど、地中海と比べたら圧倒的に交易規模は小さいとは思う。でもこの本がフランスでどういう反応を受けたかは気になるな。どんな人が読みたいと思うんだろう?笑。
読了日:1月21日 著者:シャルロッテ・フォン・ヴェアシュア
面白い本 (岩波新書)面白い本 (岩波新書)感想
岩波新書らしいシンプルなタイトルと、岩波新書らしくない著者(失礼)の組み合わせ。岩波新書の読書本というと斎藤孝の『読書力』が有名だが大分路線が違い、読んで楽しい、ワクワクする、といった基準で選ばれている。そこらへんは読書に何を求めるかの違いか。私は成毛路線の方が好きだ。後書きの「この100冊を全部買うと20万円」というのがシンプルで興味深い。専門書に慣れてしまうと1冊2000円は安く見えるから怖い。なお100冊中既読はわずか4冊で、全て鉄板の科学本。いつかはこんなリストがつくれる人になりたいもの。
読了日:1月23日 著者:成毛 眞
日本を変えた昭和史七大事件 (角川oneテーマ21)日本を変えた昭和史七大事件 (角川oneテーマ21)感想
著名な歴史作家による昭和史分析。五・一五事件などでの「テロが実行されるために越える必要があった一線」という見方が興味深い。アルジェリアのテロは何が一線を越えさせたのだろう。東条英機周りはよくある?日本人リーダー(はダメ)論。戦費の話は初めて読んだが、海外と比較しないとわからない。「総力戦」戦争は案外どこも同じな気も。最後にロッキード事件田中角栄論。基本的に擁護調の筆致。なるほど政治家の「カネ」を叩いて失脚させる手法の元祖か。しかし見方によっては日本の低迷は(肯定側の)角栄神話にもあるのではと思う。
読了日:1月26日 著者:保阪 正康
戦争の経済学戦争の経済学感想
イデオロギー面が強調されがちな戦争もお金がかかる、という面に焦点を当てた本。一般書という感じではなく、構成も海外の経済学教科書のスタイル。慣れてない人はちょっと厳しいかもしれない。印象に残ったのはテロ周り。必ずしも貧困とテロが直結するわけではなく、訴えを合法的に届けられるかがカギだという。テロを認めるつもりはないが、「断固としたテロとの戦い」が時に悲惨な結果を生む説明になっているかもしれない。自衛隊を軍隊に?などという声もあるけれど、感情的な対立ではなくこういった議論もできる環境になるとよいね。
読了日:1月27日 著者:ポール・ポースト
ニッポン鉄道遺産―列車に栓抜きがあった頃 (交通新聞社新書)ニッポン鉄道遺産―列車に栓抜きがあった頃 (交通新聞社新書)感想
荷物を運ぶ赤帽、手軽に入れる食堂車…今はない様々な「懐かしい」ものをこれでもかと集めたらできた本。世代的に全く懐かしさのようなものを感じないのだけれど、どうも世代の問題じゃない気がして。「鉄道」をどう捉えて好きになったかの違いが如実に出ていて、描写にあまり共感できなかった。ふれあいの場とか、効率追求批判のような記述があまりに多い。私の中では鉄道はむしろ効率化や機械化の場で、そちらの方にこそ魅力を置いているのでその辺は根本からわかり合えなかった。好きな人は激ハマりするであろう本ではあるけども。
読了日:1月28日 著者:斉木 実,米屋 浩二

読書メーター

【割と書評…?】『面白い本』

今月第2回目の【割と書評】は、成毛眞さんの『面白い本』。まぁ成毛さんが好きな本、面白かった本を語るという本…書評集なので、それを改めて書評するのも変な話だけど。ということで【割と書評…?】

 

全部で100冊紹介されていて、8個のサブセクションに分かれている。最後に鉄板読み物としておまけで数冊。私が過去読んだことがあるのはメインの100冊から4冊と、鉄板読み物から2冊。少ないと見るか多いと見るかは微妙なところだけれど、まぁ少ないのかな。ただタイトルを聞いたことがないどころか名前を見たことがないような出版社がぞろぞろ出てくるわけで(廣成堂出版とか恵雅堂出版ってどこですか?)知っている人の方が異端であることは間違いない。*1

 

岩波新書の読書本というと、多分多くの人が真っ先に思い浮かべるのが有名な『読書力』(斎藤孝)だと思う。こっちはかなり教養主義的な選本だったし、それ以外の読書論のところもずいぶんと高圧的というか、対象のよくわかんないものだった。それと比べると成毛本はとりあえず「読書楽しーなー」という感じが全面に出ていて好感が持てるし、純粋に「それなりの本好きにマイナーな面白い本を教えてあげる」というスタンスでわかりやすい。

 

さて、私が読んだことのある4冊を、成毛評、むとうさん評を簡単に比較したりしながらざっと流してみよう。

 

 

1:『ワンダフル・ライフ』 J・グールド ハヤカワ文庫

 

この本でも一番最初に出てくるあたり何か思い入れがあるのかもしれない。一般向け科学書を読む人の間では有名なグールド。もう若干過去の人かな。バージェス頁岩という謎の、奇妙な生き物の化石をもとに、進化生物学の常識を壊していく本だ。

 

成毛さんは、地球の支配者面をしている人間がいかに地球史の巨大な流れの一部でしかないか痛感させられる、と読んでいる。私がこの本を読んだ時にまず感じたのは、日本語の「進化」という訳語の難しさだ。英語だとどうなのかわからないけれど、日本語の「進化」にはあまりネガティブな意味はない。だけど生物の「進化」が必ずしも一本の改善過程にあるわけではない、というのが、このバージェス頁岩が示したことだ。

 

この議論が受け入れられるようになったのは、所謂「ぽすともだん」みたいな思想がそれなりに流行ってたからじゃないかなと思ってる。進化論成立、受容は経済成長の安定化とかで「ものごとは改善されていく」という思想が広まったことと表裏一体だと思う。そこらへんの「イケイケドンドン」みたいな思想がちょっと修正された時期に出た議論・本なんじゃないかな。*2

 

2:『フェルマーの最終定理』 サイモン・シン 新潮文庫

 

これは説明不要の超有名作品。成毛評は『暗号解読』もひっくるめて「数式を言葉で表す才能に長けている」とのこと。数学は一つの言語だ、という考え方は広くあるけれど、その数学「語」の名翻訳者、という感じかな。

 

私の感想は、「テレビ文化と活字文化の融合の極み」というもの。*3サイモン・シンは確か元々テレビ番組の名プロデューサー。つまり視覚に訴えるのがバツグンに上手い。だから文章も、とにかくイメージ、映像が見えてくる構成になっているな、という印象を受けた。要するに「プロジェクトX」なのである。かぜのなかのすばるぅ~。

 

あと訳者の青木薫さんについてコラムで触れられていたのがよかった。私もこの訳者さんは大好きで、読んでいて安定感があると思う。翻訳者で最近有名なのは山形さんかもしれないけれど、青木さんは割と原文に忠実に訳してるなーという印象を受けた。え?比較対象が悪い?

 

 

3:『ご冗談でしょう、ファインマンさん』 R・ファインマン 岩波現代文庫

 

これもまぁ説明不要の超有名自伝。成毛さんはとりあえずこの本は「ウソが入っている」ということを強調したいらしい。成毛さんの本『実践!多読術』の中にも、この本に書いてあることを全て本当だと思っている人がいるが云々という記述がある。そしてこの本は、『面白い本』の中で「嘘のノンフィクション」という枠でなんとあの『鼻行類』などと同列に扱われている(!)

 

この扱い方、私はちょっと「?」である。だって自伝ってそういうものじゃない?例えば『高橋是清自伝』なんかは逆に、自分はものすごく几帳面でやたらと記録をつけてきたからめっちゃ正確ですよー、という断り書きがある。逆に言うと人の記憶なんて曖昧なものだし、自分で語っている以上よく見せようとするバイアス、よく解釈するバイアスが入るのは避けられない。

 

そういう意味でも、このファインマン本をあえて「嘘のノンフィクション」として、嘘が含まれていることをことさらに強調する姿勢はフェアじゃない思うのだ。自伝と呼ばれるもの全てをそういう扱いで読むならともかく。ファインマンだから嘘八百だったとしても腹が立たないというのはわからなくはないけれど、それを「嘘のノンフィクション」という枠で紹介するのはいかがなものかなぁ。

 

 

4:『二重らせん』 ワトソン、クリック ブルーバックス

 

これも科学者の発見伝としては超有名。成毛さんはあまりこの本そのものについてはコメントしていない。どちらかというと背景にある、ロザリンド・フランクリンとの確執、剽窃疑惑の方に注目している。この話は割と最近になってから、比較的信頼できる定説として広まったもので、昔からあったわけじゃないみたい。

 

それよりなんでわざわざブルーバックス版なんぞをこのタイミングで(2012年)出したんだろうか。確か講談社文庫にずっと入ってたんだけど、実質値上げ?それとも解説が充実してたりするんだろうか。訳者は同じみたいなので訳文が変わってるとは思えない。

 

 

最後は本編とは全く関係のない内容になってしまった笑(成毛評が短すぎて…)。全体的に『面白い本』の書評記事というよりは成毛さんの本を口実に私が有名な科学読み物の感想を書き直してるみたいな記事になってしまったのは一応反省。

 

成毛さん、これからも面白い本をたくさん紹介してくださいね。Honzも応援してます!

*1:読書人は異端を目指して進んでいくんだよ!というのはおいといて

*2:原著は1989年。研究としてはもう少し前に行われてるからまぁ80年代半ばから後半の空気…「ぽすともだん」思想の流行ってこの時期で良いんだっけ?

*3:そういう意味ではサイモン・シンの面白さは池上彰の本の読みやすさ、面白さに通じるものがあるのかもしれない。

【割と書評】『卑弥呼は何を食べていたか』

ということで移籍後初【割と書評】コーナーいってみよう。

 

今回取り上げるのは、『卑弥呼は何を食べていたか』(新潮新書)。こんなタイトルだけれど、卑弥呼の章は最初の5分の1くらいで、実際は古代史全般における食文化を紹介している本。

 

古代史の面白さと厄介さは、文字史料が少ないことに帰着すると思う。特に日本に歴史書が登場するまでは、中国の歴史書に頼らなければいけない。あとは遺跡を掘り当て、発掘し、年代を推定し…といった作業に頼ることになる。この推定部分がかなり厄介だからこそ、遺跡のねつ造があったり、教科書の内容がコロコロ変わったりするんだよね。これが厄介さだ。

 

でもコンテンツとして古代史を消費する側としては、実はこの「推定」がとても面白い。著者の味が出るし、こちらも想像して楽しむことができる。なんとなく文字にされてしまうと平伏してしまう我々のかなしい性(?)もあり、古代史ならではの楽しみだと思う。特に食文化に関しては推定の楽しさが光る。なんせ自分で作ってみて食べてみて感動することができるんだから。この著者は古代食研究家ということだが、きっとこの楽しさにとりつかれた一人なんだろう。

 

さて内容だけど、古代人が食べていた食材をいくつかのテーマごとに整理して、調達方法~調理方法まで紹介している。あっちへ飛びこっちへ飛び、読みやすいか?と言われると決してそんなことはない。何の話をしてたんだっけ?となることも多々ある。とはいえ、雑学本だからこんなもんだろう。

 

特に印象に残ったのは、牛乳・乳製品の下り。文武天皇はチーズが大好きだったらしい。乳製品はパン、肉と共に良くも悪くも欧米化の象徴のような扱いだけれど、実際はむしろ、古代日本人も大好きでしたと。

 

確かによく考えると、肉に関しては仏教上の問題で食べず、パンはそもそもコメの代替品みたいなもので不要だけど、乳製品って禁止はされてないし、特に代替品があったわけでもないんだよね。そういえばブッダは乳粥をもらって元気になった、みたいなエピソードがあったはず。実際仏教が乳製品をプッシュしているという説明も出てくる。それを考えれば、むしろ日本人が好んで食べたと考えた方が自然だ。

 

もうひとつ興味を引いたのは、古代人の栄養バランス。例えば脚気の話。脚気と言えば森鴎外が海軍医時代にやらかしたエピソードが有名だけど、この時代の貴族も例によって脚気に悩まされていたらしい。脚気というと「玄米を食え」ということになるんだけど、それ以上に魚介類の問題があったとか。庶民が食べてる貝の方が栄養バランスには優れていたんだそうな。

 

とまぁこんな感じで、それ以外にも氷だの干し飯だのアワビだの甘味料だの(氷は食材とは言わないか)、ここで紹介しきれなかったたくさんの食材が出てくる。カラー写真とかがあればもっと楽しめたかもしれないけれど、それは新書に求めちゃいけないかな。さて、今日は何を食べようか。この食材、古代ならどんなふうに調理したかな。そんなことに想いを馳せつつ、そっと本を閉じようか。

 

(追記):今読み直してみて気がついたけど、卑弥呼のヒの字も出てきてないなこの文章笑。

2012年12月の読書メーターまとめ+

ということで引っ越し最初の記事は旧ブログでもずっとやってた、読書メーターのまとめから。

 

面白いくらい先月と同じで、冊数、ナイス数が全く同じ。ページ数は先月が4498だから14ページしか違わない…ここまで一致するのも恐ろしい。あ、でも『グリーン革命』の上を登録してない(古い方を借りてきてしまったので仕切り直し)から、実質1冊多いのか。

 

今月のベストは『国際秩序』(中公新書)かな。ナショナリズム的な感情に囚われないで今の外交問題をどう解決していくかを考える上で、とても示唆になる本。高校世界史の副読本としても使える。

 

次点で『これが物理学だ!』か『地球の論点』といったところ。『これ物』は新世代の古典物理読み物のスタンダードになるかもしれない。『地球の論点』はちょっと骨太の論考で読むのに骨が折れるけど(骨太だけに)、今地球環境関連に携わっている科学者が何を考えてるかわかる。人を選ぶけど好きな本の典型。

 

ちなみに2012年全体だと、161冊、51116ページ、426ナイス。月平均13.4冊、4260ページ。

 

2012年12月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:4484ページ
ナイス数:42ナイス

これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義感想
MITの教養科目としての物理学講義録。体を張った実験までするドタバタ感と絶妙な語り口が良い味を出している。もちろんアメリカの全ての大学でこんな講義がされているわけではないにしても、日本でもこんな講義があったら教養科目不要論とか出ないのにね。最後に美術について語りだすが、なるほど物理学を実験計測と論理からなる「美」だと捉えているのだなと、振り返るとわかる。ひも理論に懐疑的だったのも頷けるけれど、逆にいえば古典物理に傾きすぎな印象も若干。ヒッグス粒子の話をこの教授の口から聞いてみたかったのだけど。
読了日:12月2日 著者:ウォルター ルーウィン
デフレとの闘いデフレとの闘い感想
日銀の2006年のゼロ金利解除の際に副総裁として反対意見を述べ、総裁と副総裁が意見不一致のまま政策が決定されたという有名なエピソードを持つ著者。現在でもデフレをどうするかの議論は続いているわけで、当時の経験から学べることは多いと感じる。デフレ脱出の際長期金利が上がるのにインフレ連動債を使って対応、などのアイディアはあまり聞いたことがなかったので新鮮に読めた。時期的に現・安倍総裁が小泉~安倍時代に政権の中枢にいた頃の話。ということは、当然安倍氏の現在の緩和スタンスに影響しているところがあると考えるの自然だ。
読了日:12月8日 著者:岩田 一政
体験ルポ 国会議員に立候補する (文春新書)体験ルポ 国会議員に立候補する (文春新書)感想
まぁ選挙も近いということで。前参院選に一ジャーナリストが出てみたよという記録。選挙の裏、政党内での権力争いを生々しく描写しているので読み応えがある。よく言われる通り湯水のごとく使われるお金。著者はずいぶんがんばっていたけれど、やはりおいそれと出せる額じゃないね。しがらみがないことをウリにしているみんなの党でも党内の権力闘争は避けられないのだな。あとはよしみちゃんのワンマンっぷりが。ネット選挙解禁は確かに待望だけれど、ネットを使えない状況下で当選した議員が立法するわけだから、結局既得権益との戦いに行き着く…
読了日:12月10日 著者:若林 亜紀
資本主義と自由 (日経BPクラシックス)資本主義と自由 (日経BPクラシックス)感想
経済系古典の中でも屈指の知名度を誇る一冊。細かい差はあるけれど、多分現代の経済学者で全面反対する人はいない…と思う。この本が出たのはまだソ連華やかなりし頃で、様々な「余計な」政府の仕事があったとフリードマンは説く。市場に任せっぱなしが正しいわけでもないけれど、政府にやらせる理由がないことがたくさんある。この違いを理解しないととりあえず規制緩和に反対みたいな思考回路になってしまうわけで。翻って現在の状況を見ると自由主義は嫌われ者サイド。今改めてこの本の問題意識をくみ取り時代に逆行しないようにしたいところだ。
読了日:12月11日 著者:ミルトン・フリードマン
ピカソは本当に偉いのか? (新潮新書)ピカソは本当に偉いのか? (新潮新書)感想
これは地味に面白かった。ピカソがここまで有名になれたのは、結局絵画ビジネスという概念が登場した時代に、前衛絵画という社会に求められた概念を絶妙に取り入れたことにあると。もちろんデッサンの才能などもあるのだけれど、時流に乗れたということ。ピカソに直接関連しない部分も美術論として面白い。まぁ「偉い」という概念に落としこめるのかはよくわからなくて、運と実力と時代を読む力を持っていたという結論なら「凄い」の方がしっくりくるかなーというところ。あと、投機ってのは「わかってなく」ても発生するわけで。
読了日:12月14日 著者:西岡 文彦
思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント (朝日新書)思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント (朝日新書)感想
マスコミでも活躍する経済学者が思考の「型」を提供する、というもの。飯田先生はコメンテーターとして各方面で多彩な話題を扱っている(扱える)人だけど、なるほどこういう「型」に落とし込むからいろんな話題に対応できるわけだ。合理性とか取引、競争の効能みたいなところはよくある経済学に対する勘違いを解きほぐす意味で良い解説。新鮮な話題としてはオープンシステムとクローズシステムの違いというのが面白い。某居酒屋社長が某知事選に出てたけど、あれは典型的な両者の混同ってことなんでしょうかネ。
読了日:12月15日 著者:飯田泰之
イタリア人と日本人、どっちがバカ? (文春新書)イタリア人と日本人、どっちがバカ? (文春新書)感想
うーん。現代イタリアの社会事情を本場イタリア人の目からエピソードを交えて語るというのは面白い。特に南北格差が本当に凄まじく、北イタリア単独だとあんなに強いか…まぁドイツも西だけならもっと強いか。本編?は面白い…んだが。タイトル通り日本論を交えながら「バカ」に言及する部分があまりにもお粗末じゃないか。要するに新自由主義グローバリズムに対抗しないと食い物にされちゃいますよというよくあるオハナシ。空気読め文化と蔓延る個人主義を打破って…じゃあ何を目指すんだ、というのは別にこの人に限ったことじゃないけどね。
読了日:12月17日 著者:ファブリツィオ グラッセッリ
現代エジプトを知るための60章 (エリア・スタディーズ 107)現代エジプトを知るための60章 (エリア・スタディーズ 107)感想
ムバラク退陣からもう2年弱。まだまだあまり先が見えない状況だけど、この本を読むと、いろんな先送りにされがちだった課題が一気に表面化してきて収拾がつかなくなっているという印象がある。例えば公企業の存在感が大きかったり、日常物資の(社会保障政策の一環としての)価格統制が強かったりと、経済面でもある種の独裁だったからこそのシステム。この辺を「民主的」に解決するのには相当な時間がかかりそうだ。あと意外と資源国だったので驚いた。他の産油国組が強すぎて霞んでるのか。そうなると経済的には典型的なオランダ病だよねぇ。
読了日:12月19日 著者:鈴木 恵美
国際秩序 - 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ (中公新書)国際秩序 - 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ (中公新書)感想
これは面白かった。国際関係を構築する上での基礎概念から、それを応用して近現代の国際関係を読みとくまで。例えばウィーン会議は世界史の教科書だと有名な「会議は踊る、されど進まず」といった負の側面が強調されるけれど、これは一つの成功例として紹介されている。高校世界史でなんとなく出てきた事件等の背景が読みとけるのでとても面白い。高校生、受験生にもオススメ。「みんな仲良く」とか「自主路線!」とかいうフレーズでは国際関係は安定しないことがよくわかる。あえて言うなら、もう少し日本の話を増やしてもよかったのではくらいか。
読了日:12月22日 著者:細谷 雄一
政友会と民政党 - 戦前の二大政党制に何を学ぶか (中公新書)政友会と民政党 - 戦前の二大政党制に何を学ぶか (中公新書)感想
日本で過去唯一「二大政党制」と言えた昭和初期の政治を理解することで、現代の政治への示唆を得ようとする本。民政党の設立契機がVS政友会という面を持っていたり、地主資本家対都市労働者という対立があったりとまさに自民党対民主党民政党民主党)。外交政策など各種政策で、いかに自党の成果にするかのために重箱の隅をつつく争いをしたというのもどこかで見たような。また満州事変五・一五事件後の政党の動きはあまり知らなかったので興味深かった。暴走する軍部VS止められない政党、というのは思い込みだったのか、という。
読了日:12月24日 著者:井上 寿一
バブルの歴史―チューリップ恐慌からインターネット投機へバブルの歴史―チューリップ恐慌からインターネット投機へ感想
日本人にとってはバブル=80年代末だけれど、歴史をさかのぼると似たようなことがたくさんありましたという本。歴史は繰り返すというけれど、「今度だけは違う」という言葉でいつも片づけられてきた。投機の肯定が既存の社会秩序を壊そうとする動きに連動すること、そのために女性の投機家が結構活躍していたことが興味深かった。また市場心理だけでなく政策的なもの、日本のバブルであれば政治家が政治資金のために株価上昇をあおる等の裏話も面白く読めた。サブプライム危機の話をこの著者はどう書くだろうか?と考えながら読むと面白いかも。
読了日:12月27日 著者:エドワード チャンセラー
日本語の宿命 なぜ日本人は社会科学を理解できないのか (光文社新書)日本語の宿命 なぜ日本人は社会科学を理解できないのか (光文社新書)感想
社会科学のいろんな訳語のニュアンスのずれを説明した、面白いけどくだらない本(注:断じて逆ではない)。なるほど「社会」と「共同体」みたいに使い分けが難しそうなものから、「首都」と「大文字」と「資本主義」みたいなどこに共通点があるんだってものまで、語源まで遡って共通点、相違点を洗い出していくのは面白い。だけど結局「日本語の」宿命になるかといわれると?結局は「訳語決定は難しいね」で終わってしまうのが何とも。何か諦念みたいなのが感じられるのも悪印象。社会科学用語語源辞典、と割り切って読むならそれなりに楽しめる。
読了日:12月28日 著者:薬師院 仁志
地球の論点 ―― 現実的な環境主義者のマニフェスト地球の論点 ―― 現実的な環境主義者のマニフェスト感想
2012年の締めに。副題の通りで、所謂単細胞的な(と私は呼んでいる)環境保護論とは一線を画す。いや、アメリカではこの路線が主流なのかな?日本で環境保護論というと基本的には「自然に帰れ」論だと思う。でも著者は遺伝子組み換えから都市化まで推奨していく。科学の力を信じているからできる主張だ。アメリカの場合は宗教的な文脈で環境を語る人が多い、というのはあるのかもしれない(特に、生命倫理・遺伝子系)原発も積極推進の立場だったが、さて福島の事故があった今著者がこの本を書いたらどのような議論になっただろう?
読了日:12月31日 著者:スチュアート ブランド

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